うつ病

当院より、うつ病についてご説明します。
また、うつ病の治療について、当院での考え方や方針をご案内します。

 うつ病の症状

気分が沈んでいる、何かイライラする・焦る、やる気が起きない、集中力がない、先のことに希望が持てない、楽しめない、という心の症状に加えて、眠れない、食欲がない、だるい・疲れやすい、といった体の症状が続いている場合、うつ病の可能性があります。

うつ病には、血圧が上がったり下がったり、急に汗をたくさんかいたり、嘔気や下痢をしたり、口が渇いたり、といった自律神経失調症の症状があることも多いです。(そうした体の症状の原因を内科などで調べても異常が見つかりません)

うつ病が悪化すると、「(自分は)何をやってもダメ」「取り返しのつかないことをした」「(自分は)悪い人間だ、生きている価値がない」などと絶望感を持ち、自分をひどく責めることがあります。それがひどくなると「死んでもいい」「死にたい」という気分になります。

うつ病になると、脳の動きが悪くなり、考え方に柔軟性がなくなります。多くは悲観的になります。何を話していても同じ話題に戻ったり、「昔は良かった」と繰り返したりして、周囲も「ネガティブ思考になっている」と気づきます。でも、それを本人に指摘しても理解力が落ちているので理解されません。

うつ病は、「普段何気なくやれていることができなくなる、苦になる」という自覚症状で始まることがよくあります。毎朝読んでいる新聞を理解しにくくなった、読みたくなくなったとか、いつもの定番のお料理を作るのが億劫になるとか、会社でのルーチンワークがはかどらなくなる、などです。

しかし、本来うつ病は治りやすいものです。私は、これまでの診療経験を通してそう思います。

ただ、現代社会は高ストレス社会であり、国も、会社も、地域も、学校も、社会全体がゆとりを失っています。「うつ病になんかなっていられない」と言われる方がいますが、そのように思う時点で「頑張り過ぎ」ているのです(ご本人にとっては致し方なくそうなってしまっているわけですが)。

うつ病は「頑張り過ぎ」から疲弊を来たしている状態か、「もう頑張れない」「二度とあの苦しい思いはしたくない」と思って頑なに動くことを拒絶している状態(ご本人もその拒絶の姿勢に無自覚なことがあります)、とも言えます。

うつ病とよく似た病態として「適応障害」がありますが、症状や治療には共通するものが多いです。

治療的な観点からすると、「適応障害かうつ病か」という診断へのこだわりよりも、抑うつ状態を治すために何をすべきか、と考えることが大事だと思います。

うつ病の治療

「頑張り過ぎ」でうつ病になっていて、疲労が強い状態においては、まず休養が大事です。

休養については、時々勘違いされますが、「何もせず横になっていること」が良いわけではありません。もちろん、十分な睡眠が必要ですが、うつ病において疲れているのは“体”ではなく、“脳”なのです。“脳”が休まるのであれば、適度に体を動かしても良いのです。たとえば仕事のストレスでうつ病になった方ならば、好きなところに出かけて、親しい友だちと話したり、映画を見たりすることも脳の休養になります。「脳の休養」の方法について、主治医やカウンセラーとよく話し合うことが大切です。

ただ、うつ病になる方は「頑張る」ことが好きな方が多いので、「出かけてもいい」と伝えても「出かけなければいけない」と受け止めがちです。「○○しなければ」「○○すべき」という考え方から自由になって、その都度の思いつきで動くようになれば、うつ病のリハビリも終盤にさしかかったと見て良いでしょう。

うつ病の治療においても、ご家族の理解や協力は必要です。ご家族がうつ病の人を「頑張らせない」で自然体になれるように配慮が必要です。

うつ病の心理療法(精神療法)としては、認知行動療法が有名であり、患者さんやご家族が読んでためになる本も多いのですが、認知行動療法はいわゆる「ポジティブシンキング」とは違うことに注意が必要です。
(認知行動療法は一人で行なう、「セルフヘルプ」としても可能ですが、やはり医師やカウンセラーのアドバイスを受けながら行なうのがお勧めです。)

うつ病の薬物療法については、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などの抗うつ薬と、ベンゾジアゼピンを中心とした抗不安薬・睡眠薬がありますが、他にも、非定型抗精神病薬(エビリファイ・ジプレキサなど)、感情調節薬(炭酸リチウム、バルプロ酸)などが使われます。もちろん、漢方薬も有効です。

(一口にうつ病と言っても、「非定型うつ病」「気分変調症」「パーソナリティ障害による抑うつ状態」「双極性障害による抑うつ状態」「発達障害を背景にした抑うつ状態」「認知症による抑うつ状態」などいろいろあり、医師が病状をよく見立てた上での薬物療法が必要です。)