チック症(チック障害)

当院より、チック症についてご説明します。

チックは、まばたきや咳払い、首振りなどの動きが突然現れ、それが繰り返される症状です。一つの「癖」のようにみなされることがありますが、チックの症の人にとっては無意識に出てくる動作であり、しばしば苦痛を伴っています。
チックは、大変ありふれた症状です。チック症状は幼稚園から小学校低学年に始まることが多く、子どもの5~10人に1人がチック症状を経験します。そして、その多くは一時的なもので、自然に治っていくことが多いのです。しかしながら、中には症状が年単位の長期間にわたり、強いチック症状があり、苦痛が大きいため、治療が必要な時があります。

チック症の症状

チックの症状は、「運動性チック」と「音声チック」の大きく2つに分けることができます。

運動チック

  • まばたき(瞬目)・・・運動チックの中で一番多い症状です。
  • 首振り・首ねじり
  • 口すぼめ・口をゆがめる
  • 顔をしかめる
  • 肩をビクッと上げる
  • 手や足を振り上げる・ねじる
  • 飛び跳ねる

音声チック

  • 咳払い・・・音声チックの中で一番多い症状です。
  • 鋭くて短い、甲高い叫び声や奇声
  • 鼻鳴らし
  • 汚言症(他人をののしるような汚い言葉や性的・卑猥な言葉を短く言い放つように発する)
  • 反響言語(他人の言った言葉を繰り返し言う)

このようなチック症状に加え、チック症の患者さん本人は、チックの動きをやらずにはいられないとう感覚(前駆衝動)に襲われ、チックの動きをするとこの感覚がすっきりする、ということがあります。10歳以降になるとこのような前駆衝動を自覚する人が増えます。特に、汚言症のある人(トゥレット症)には多い感覚です。
チック症状は、不安や緊張を強いられる状況(たとえば小学生だと静かな教室や卒業式などの行事)、逆に強い緊張から解放された時、楽しくて興奮した時などにも悪化しやすいです。

チック症の原因

チック症の原因ははっきりわかっていませんが、生まれ持った体質(遺伝的要因)や、脳内の神経伝達物質の異常が指摘されています。運動機能を調節する脳機能の障害であることがわかっています。時々、チック症の原因は親の養育や家庭環境だと言われることがありますが、それは正しくありません。ただ、ストレスがかかるとチック症状が悪化することは多いものです。そういう点から、チック症の原因については、体質と環境要因が複雑に混じり合っていると言えます。

チック症の合併疾患

チック症は、先に説明したように、前駆衝動があるため、(チック運動を)「やってはいけない」「でもやってしまえばスッキリする」という衝動と葛藤に困り、症状を意識すればするほどやってしまう、という点から強迫症状と似ており、強迫性障害を併発することがあります。また、強迫性障害の関連症状として、抜毛症や皮膚むしり症など、体の一部をいじる動作を繰り返すこともあります。
また、チック症には、ADHD(注意欠如・多動性障害)や自閉スペトラム症(自閉症、アスペルガー症候群など)などの発達障害を合併することもあります。

チック症の治療

幼稚園や小学校低学年で、軽度のチック症であれば、自然に軽快して無くなっていくことが多いので、治療の必要はありません。家族や先生などの周囲の人が無理に症状を直そうとして、子どもに症状を指摘したり、症状が起きないようにしろと指示したりすると、かえって症状は悪化します。
年単位で慢性化したり、症状が強く本人の苦痛が大きかったり(運動チックで筋肉痛が起きる、叫び声で喉を痛める、前駆衝動で苦しむ、など)、汚言症があったりする場合は治療が必要となります。

症状が軽症であっても重症であっても、次のことは家族や本人に理解して欲しいポイントです。

  • チックの原因は、脳機能の障害であり、親の養育や本人の性格の問題ではないし、単なる「癖」ではないこと。
  • チックは本人の一つの特性として周囲が受け容れると、それだけでも良くなること。
  • 症状は良くなったり悪くなったりする性質なので、些細な変化で一喜一憂しないこと。
  • チック症状のみにとらわれず、本人の得意なことや長所など、性格や人柄などを全体的に見ていくこと。
  • チックをひどく悪化させるストレス状況があれば、それを取り除くこと。
  • 前駆衝動やチックによる生活上の苦痛に対して、本人が挑戦できる程度のストレス状況ならば、それに乗り越えていくためにはどうするのかを一緒に考えていくこと。

低学年の児童であれば、親に対するアドバイスやカウンセリングが主になります。チック症状のために、からかいなどのいじめを受けているケースもよくあるので、学校の先生に説明して周囲の理解を求める必要があります。高学年の子どもならば、症状の改善方法につき、本人と話し合います。

また、チックの症状にばかり注目するとかえって症状が悪化することもあります。そのため、子ども本人が元気に生活していくために何をしていくのが良いのかを考えることが大事です。感情表現がうまくできていない子どもに遊戯療法や絵画療法、箱庭療法などを勧める場合もあります。

チック症に強迫性障害が合併している場合は強迫性障害の行動療法や薬物療法、発達障害が合併している場合は、発達障害に焦点を当てた生活援助や療養指導が有効になります。

そのような環境調整やカウンセリングなどでチック症状が軽快しない場合、症状が重症の場合には、薬物療法が有効です。チック症の薬物療法としては、向精神薬、たとえばアリピプラゾール(エビリファイ)・ハロペリドール(セレネース)・リスペリドン(リスパダール)・バルプロ酸(デパケン)などの薬物がありますが、特に児童・思春期の場合は向精神薬の選択や用量の調整が難しいので、注意が必要です。向精神薬以外の選択肢としては、降圧薬であるクロニジン(カタプレス)、漢方薬による治療もあります。当院では、そのような薬物を症状に応じて使い分けたり併用したりしています。