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ウェクスラー式知能検査(WAISーⅣ)の意味と解釈について

このページでは、知能検査、その中でも現在の精神科・心療内科で使われることが多い知能検査である、ウェクスラー式の知能検査の意義や目的について説明したいと思います。

Ⅰ.知能検査とは?
 知能や発達が一般的な水準と比べてどのくらいか、どのようなことが得意で、どのようなことが苦手なのかを明らかにするための検査です。検査を受ける方の得意分野、苦手分野がわかるため、今後の生活がしやすくするためのヒントが得られます。
 時に、テレビなどで、有名人の知能指数(IQ)が高い、IQが130ある、「天才」、などとして能力の高さを表す数値として知能指数が表されることがありますが、実は、知能検査では、秀才のみならず、天才的な能力、ましてや創造的な能力を証明することはできません。むしろ、アインシュタインのような天才に知能検査をしたならば、検査結果としては、今で言う「発達障害」として問題あり、とされかねません。
 知能検査の由来については諸説ありますが、一つには、第一次世界大戦など、20世紀前半に多々あった戦時に、戦地では「使いものにならない」とみなされた知的障害者をあぶり出して排除する目的がありました。戦場で爆弾や毒薬を扱う際に、不手際があっては戦隊全体の生死に関わります。そのため、劇物の恐ろしさを正しく理解して扱える能力が問われ、そんな必要性から知能検査が生み出された、と言われることがあります。原子力工学などを含め、戦争が科学を発展させる、と言われることがありますが、知能検査の由来も、そのような側面を持っています。
 つまり、知能検査は、能力の低いところ、不得意な能力分野を表現するのには長けていますが、高いからと言っても、それが天才的・創造的な能力を表す指数としては不適切、と言えます。

Ⅱ.知能検査って、どんなことを行うの?
 言葉に関する説明や数に関する問題など、色々な種類の問題に取り組んでいただきます。所要時間は人によって様々ですが、ウェクスラー式(WAIS)では、おおよそ1時間半から2時間程度です。

Ⅲ.ウェクスラー式知能検査(成人向け)の対象年齢は?
 16歳0か月から90歳11か月の方まで実施可能です。

Ⅳ.ウェクスラー式知能検査で、どんなことが分かるの?
 この検査では、IQに加え、4種類の指標の得点を出します。4種類の指標には「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」があり、この指標でご自身の得意不得意を見ていきます。総合的な知能指数(IQ、FSIQ)と4つの指標については、以下のようになっています。

◎ 全検査IQ(FSIQ) : 全体的な知能を表しています。次に説明する、4つの指標の総合得点と言えますが、同じIQ指数(FSIQ)でも、4つの指標が総じて同じレベルである人と、4つの指標の間で大きな差がある人とでは、現実の仕事や学習において、能力上、かなり違いがあります。

★ 言語理解(VCI) : 言葉を理解したり、言葉で説明する能力です。一般的知識や社会的ルールの理解力も含まれます。学校で学習した国語や社会の学習成果としての能力もここに含まれますが、単純に学校での国語や社会科の成績や能力というよりも、言葉を使って物事を理解して、表現するための潜在的な能力、と捉えるべきでしょう。
言語理解(VCI)が低い人に対しては、説明や指示をできるだけ簡単な言葉でわかりやすく説明することが必要であり、有効です。

★ 知覚推理(PRI): 目で見て物事を理解したり、目で見た情報をもとに考えたり推理する能力です。物事を論理的に考える力や、状況理解をする力も見ることができます。この指数が低い人は、目の前の状況を見て、どのように理解するか、「推理力」が弱く、状況を「パターン」として「分類」することが不得意です。例えば、大勢の人がキャンプ場にいて、テントを張っている人や、水汲みに行っている人、火おこしをしている人、食材の下ごしらえをしている人、ゴミをまとめている人、など、いろいろな役割をしている人たちがいる状況を見て、個々の人が何をしようとしているのか、どの役割の人が不足していて、それをどのように手伝ったら良いのか、そういうことが理解できるか、どうか、が問われますが、知覚推理(PRI)の弱い方は、そうした状況の理解が難しいのです。
そういう人に対しては、「パターン」として、言葉でやり方を説明してあげたり、どこに注目してどのように分類したら良いのか(キャンプ場の例えで言えば、「炊事係」「建設係」「水道係」「衛生係」「保安係」などの分類)、などと、言葉で指し示してあげることが必要です。つまり、「見よう見まね」ではなく、その逆、「マニュアル化」を目指すのですが、日本人は職人気質で、自分と同じように他人も「見ればわかる」と思いがちなので、マニュアル作りが下手な組織や会社は多いし、PRIが低い人は「空気が読めない」「不器用」とも思われがちなので、生きづらさを感じることが多くなりがちです。

★ ワーキングメモリー(WMI) : 耳で聞いた情報を覚えたり、それをもとに考えたりアウトプットする能力です。専門的には、実行機能の得意不得意を表している指標です。学習障害(LD)、注意障害(ADHD)、認知症などで特徴が表れやすい指標と言えます。
ワーキングメモリー(WMI)は私たちが日々、物事を見聞きして学習し、行動する(身体を動かすだけではなく、話す、読む、書くなどの言葉を扱う行動を含む)能力の基盤となります。例えば、私たちが他人と会話している時、相手の話を理解して記憶しながら、一時的にでも会話の内容を記憶しておき、その会話の流れ(文脈)も考えながら、次の会話に進む、という複雑なプロセスを踏んでいます。この時、私たちの脳はワーキングメモリーを使って、情報処理をし続けているのです。コンピューターで言う、「メモリー」に当たるものがWMIと例えても良いでしょう。
WMIに障害があると、会話の途中で何の話題であったか忘れてしまったり、読書をしていても文脈がわからず理解できなくなったりします。
では、WMIに障害がある方にはどう接すれば良いのでしょうか? 彼らに何かを説明するためには、説明に入る前に、キッチリと彼らの注意を引きつけるようにします。その時、余計な情報、刺激が多い空間は望ましくありません。他事に気を取られていない時に、彼らに対し、「今から〇〇を説明します」などと伝え、ちゃんと話に注意が向いていることを確認してから説明に入ります。
それでも、彼らは文脈を忘れてしまいがちなので、時々途中で、何の話題であったかを再確認したり、板書やメモ書きなど視覚的な情報も併用すると効果的です。

★ 処理速度(PSI) : 単純作業を素早く正確に行う能力です。見て覚えたことを素早く書き出す、という作業能力が問われます。情報処理のスピード、と言えます。コンピューターで言う、中央処理装置(CPU)の能力、と言えそうです。
処理速度(PSI)に障害がある人は、学習の効率が悪く、いったん覚えた仕事であっても作業が遅く、集中が続きません。彼らに作業のスピードを要求すると、かえってミスが多くなってしまいます。そのため、彼らを急かさず、正確に作業できたかどうか、を重視して接することが必要です。
PSIは、他の指標と違い、加齢による影響を一番受けやすい指標です。中年以降で外国語を覚えようとした経験がある方ならば、例えばハングルの文字の規則性を覚えたはずなのに、すぐ忘れてしまって見返す、といった経験があるかと思います。子どもの頃に漢字を覚えたようには早く暗記して書き出す、ということは加齢によりだんだん難しくなります。そう考えると、生まれつきPSIに障害を持つ子どもさんに、学校のドリルなどのスピードを要求するのは酷に思えます。

V. ウェクスラー式知能検査の結果の解釈について
この検査の結果の解釈は、総合的になされなければなりません。特に、検査時の様子、検査を受ける人(被験者)の取り組む姿勢や心身の状態は大事な情報です。元気で意欲的な状態で検査を受けたか、それとも疲れていてやる気が無いまま検査を受けたか、検査の途中で何かの刺激に心を奪われたか、検査時間はどのくらいだったか、などの情報無しに、結果の数字だけを解釈するのは間違っています。
もちろん、ウェクスラー式知能検査をよく理解して習熟した臨床心理士などによる解釈が求められます。経験の無い初心者が勝手な解釈をして被験者に悪いレッテルを貼ることは避けなければなりません。
また、知能については、ウェクスラー式の結果が表しているのは、あくまでウェクスラー式、という一つの尺度でしかないことには留意が必要です。それは例えば、運動の能力を、中学校の体育テストとして、いくつかの運動機能を点数化したもので測ることに似ています。体育テストの結果は、アスリートの能力として、ある程度は参考になるけれど、個々の競技能力の潜在能力としてはあくまで参考にしか過ぎない、という程度です。ウェクスラー式も、知能のある程度の側面として、解釈されるべきです。