パニック発作(過呼吸発作)と喘息発作、その違い

パニック発作に関係する発作として、誤診されるケースが結構多い喘息発作についてお話ししたいと思います。

パニック障害という病気においては、「息苦しい」という感覚からたくさん呼吸して酸素を取り入れようと考えて呼吸をし過ぎる、「過呼吸」という症状が起きます。これは、実際には体の中に酸素は十分にあるのに、不安の発作から「息苦しい」「空気をたくさん吸わないと」と思えて呼吸をし過ぎてしまう状態です。たくさん空気を吸うことは体に良い、と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、息をし過ぎると体の中が酸素過剰になって手足がしびれてきて、かえって気分が悪くなります。過呼吸発作を起こす人は、息のし過ぎから生じたしびれ感を「吸えていない」苦しさだと勘違いして更に「吸わなきゃ」と思ってたくさん呼吸してしまい、ますます苦しくなる悪循環に陥るのです。この過呼吸発作になったら、呼吸をし過ぎないことが必要です。しかし、過呼吸発作を起こした人は冷静に呼吸を整えることが難しいので、腕を胸の前で組んで胸で大きな呼吸をできないようにする(代わりに腹式呼吸、お腹でゆっくり息するようにする)ことが良いでしょう。

一方、喘息という病気では、空気を吸い込むための「気管」という空気の通り道が異常に縮こまり(細くなる)、空気の出入り(つまり換気)が悪くなって苦しくなります。喘息では、気管が異常に収縮し(細くなり)、空気の出入りが悪くなるので、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という独特な呼吸音が生じます。その状態がひどくなったのが喘息発作であり、これは文字通りとても息苦しい状態です。喘息発作の治療では、異常に縮こまった気管を広げる薬物を投与します。

過呼吸発作も喘息発作も、発作を起こしている本人の自覚としてはどちらも「息苦しい」のには変わりません。ただ、体内で起きている現象は全く違うし、治療法も異なるのです。

ここまでは、医師ならば常識ですから、ちゃんと鑑別診断ができれば治療上の問題はありません。問題は、「喘息発作に過呼吸発作が重なることがある」という事実を知らずに誤治療がなされることが珍しくないことです。

喘息発作は、先に説明したように窒息状態に似た状態ですから、患者さんの体験としてはずいぶん苦しい状態です。一度喘息発作を起こした人は、喘息発作が起き始めると以前に味わった苦痛が思い出されてひどく不安になります。そのため、喘息発作が起き始めた後に不安の発作が生じて、「吸わなきゃいけない」と思って過呼吸を起こしてしまうのです。こうなると、患者さん本人は喘息発作で苦しいのか過呼吸発作で苦しいのか、わからなくなります。それは仕方ないことなのですが、診断する医師の方が「喘息発作か過呼吸発作か」の二分法でしか考えられないと、喘息発作から始まった過呼吸発作の病態を理解できないのです。そのような単純な思考の医師がひとたび喘息発作と診断すれば、気管支拡張薬(縮こまった気管を広げる薬)を投与し続けることになります。もしくは、患者さんに気管支拡張薬を処方しておいて「苦しくなったら吸入して」と指示しておきます。気管支拡張薬は、気管を太く広げる薬ですから、喘息発作の患者さんは呼吸がしやすくなって楽になるのですが、過呼吸発作の状態になっている患者さんにとっては余計に酸素を吸い過ぎる状態になって更に苦しくなります。しかも、気管支拡張薬の副作用としては、脈拍が速くなり(動悸、頻脈)、手の震え、頭が重い、などがあり、これらは過呼吸発作の症状と同じなのです。そのため、過呼吸発作を起こしている患者さんが気管支拡張薬を吸入すると、病状が悪化して苦しくなります。最悪の場合は不整脈を起こして心不全状態になり得ます。
つまり、たしかに始まりは喘息発作であったものの、途中から喘息発作は収まり過呼吸発作になっている患者さん自身も主治医も「喘息発作が続いている」と思いこんでいる場合、気管支拡張薬の過剰吸入になりかねず(苦しんでいる患者さんは用量を越えて繰り返し吸入してしまうこともあります)、大変危険なのです。

なんだか、患者さん向けと言うより医師向けの注意喚起の内容になってしまいましたが、持病に喘息があり、不安発作も合併している方は珍しくありません。思い当たる方は主治医に相談していただきたいと思います。