大人のADHD(注意欠陥多動性障害)

最近、大人の方が「自分はADHDだと思う」「会社でミスが多いから『ADHDじゃないか』と言われた」などと訴え受診されることが増えました。

「不注意が多い」「仕事でミスが多い」「忘れ物が多い」「 準備が遅い」「段取りが悪い」「衝動買いする」「おしゃべりが多い」「片づけられない」などの問題があると、会社や家庭で「ADHDでは?」と疑われかねません。

しかし、そのような問題があるからといって、それだけで即座に「大人のADHD」だとは診断はできません。

もちろん、患者さんや周囲の人のADHDだという診断が当てはまっていることもありますが、そうではなく、適応障害、不安障害(強迫性障害、パニック障害、社交不安障害)、うつ病、躁うつ病、統合失調症、若年性認知症、発達障害(自閉症、アスペルガー障害)などの疾患・障害で生じる不注意や衝動性、多動をADHDだと誤解されているケースも多いのです。

ADHDについては、以前にもお話ししましたが(ADHD(注意欠陥多動性障害)と治療薬)、小児、児童期に一番症状が目立ち、その後年々大きくなるに従い、多動や不注意、衝動性などの症状は軽くなっていくのが一般的です。ですから、大人になって初めてADHDとの疑いがかかった場合は、診断に注意が必要です。「なぜ今、この年齢になってADHD?」との疑問が、診断する医師の側にないといけません。大人のADHDを診断するには、どのように育ってきたか(生育歴・発達歴)、今どのような状況にあるのか、なぜADHDが疑われる事態となったのか、などと考えて詳細な問診をして、心理検査(WAISなどの知能検査、精神機能検査)をして、慎重な診断をすることになります。「ある人がどのような資質を持って生まれ、どのような育ちをして、どのような状況で症状が生じたか」を考えることが必要なのです。

しかし、残念ながら、最近は精神科や心療内科を標榜する医療機関でも、ADHDに関する簡単なチェックリスト(たった十数問の問いに答えるだけ、5分でできます)をした程度で、心理検査も行わずに「大人のADHD」だと診断しているところがあります。そういう所ほど即座に治療薬を処方する傾向があります。(そういう行為が精神科・心療内科治療における「薬漬け」診療なのだと思います。)

大人のADHDを疑う際には、「なぜ今になってADHDが問題に?」との視点が欠かせません。たとえば、あるケースでは、残業が月に100時間以上は当たり前という会社で、慢性的な睡眠不足から疲れて仕事でのミスが多くなってきたら上司にADHDを疑われて受診を命じられました。別のケースでは、3人の子育てだけでも大変なお母さんが、子どもの部活動の遠征試合への送迎当番に加え、町内会役員が回ってきて超多忙となったために不注意やもの忘れが目立ってきたのですが、「私はADHDではないか」と自ら疑い受診されました。これらのなケースにおいては、その人の能力・体力を超えた状況が問題ですから、まずはその環境を調整して(残業制限や役員の免除)、その上で症状がどう変化していくかを見ていきながら、診断を考える方が良いでしょう。