うつ病・抑うつ状態とは

うつ病・抑うつ状態という病態ほど、一括りにして話すことはできない病態も珍しいかもしません。

一般にうつ病・抑うつ状態と言われる病気の中に、統合失調症、躁うつ病、不安障害、適応障害、人格障害、PTSD、発達障害、認知症など様々な病気が混じっています。

そんな多彩な病気の中にあって共通する「抑うつ状態」は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲の低下(何もする気がしない)、喜びの消失(楽しめない、興味がない)、といった症状を含む状態ですが、それを普通の日本語で言えば、「元気がない」「活気がない」「覇気がない」「物憂げ」「殻にこもる」「自閉的」などと表現できるでしょう。

では、「抑うつ状態」の本態とは何か、と言うと、二つの種類に分かれます。
それは、「(心・精神が)疲れ切っている」状態、もしくは「今後もう一度疲れ切ることがないように」防衛している状態と言えます。

まず、前者の「(心・精神が)疲れ切っている」状態について解説します。
「まじめな人がうつになる」とは、使い古されたフレーズになっていますが、これは「まじめに無理をして頑張りすぎた人が疲れ切ってうつになる」と言い換えたほうがわかりやすいと思います。
具体的には、会社・組織の無理な要求、長時間労働やストレスフルな接客や調整業務などに不満も言わずに「まじめに」それに応えて無理をし続けていた人が「疲れ切って」抑うつ状態になる、ということです。このような方は、周りの人から見ても、以前の活気が失われ、人柄が変わったように見え、疲弊した様子が見てとれます。

もう一つの、「今後はもう一度疲れ切ることがないように」防衛している状態とは何でしょうか?

こちらは、「頑張っても疲れる」のがわかっているから、予防線を張っている状態、と言えます。
過去に頑張って疲れた経験があり、それでこりごりしたから、もしくは、近親者や親友が頑張って疲れ切った経験を聞き、「どうせ頑張っても仕方ない」という悲観的な認識を持ち、「もう二度と頑張りたくない」という姿勢で固まっているような状態です。

現代は「ブラック企業」「ブラックバイト」が横行している時代ですし、情報社会・ネット社会ですから、自分が頑張らずとも他人が頑張った結果悲惨な結果になったことを知ることも多いので、頑張る前から「今後疲れ切ることがないように」「頑張らない」と予防線を張っている方も多くいます。未来に希望を見いだせない状態、とも言えます。

二つの抑うつ状態についてお話ししましたが、実際には、この二つの種類の抑うつ状態は、別種ではなく、混じり合っています。

過去にさんざん頑張って疲弊して抑うつ状態になったことがあるために、「頑張る」ことにうんざりしており、ちょっとしたストレス・生活の変化を前にしても、「もう二度と頑張りたくない」という姿勢を前面に出す方がいます。
こういう方は人生経験の多い中年以降に多く、その人を昔から知らない人には「サボり」と誤解されることもあり、そのように見なされることが本人を更に苦しめる、という悪循環に陥ります。
元々頑張り屋さんのこのような方には、まず、頑張ってきた自分を認めること、そして、その人の今の状態にとっての適度な「頑張り」方法・活動を見つけていくことが治療になります。

もう一つの、「頑張っても疲れるのがわかっているから、予防線を張っている状態」は、若い人に多く、物事の見通しに優れた人も多いのです。
この方たちの中も、学生時代や社会経験で傷ついた経験を持っている方が結構います。ただ、現在は活気があり、家族や親友から見て「何で頑張らないのかわからない」「やる気がない」と見られがちです。
この方たちには、周囲の誤解を解き、「頑張ったら報われる」場所、ほんとうに信頼できる人や場所を見つけていくこと(世の中に希望を見つけていくこと)、「やりがい」「生きがい」「生きていく勇気」を見つけていくこと、持ち前の洞察力を社会の中でどう生かしていくか考えること、などが治療の課題となります。

このような観点から、細かな医学的診断や治療は別にすれば、慢性的なうつ病・抑うつ状態の人に対しては、まず心身の調子を整え、回復状況に平応じて、「生きがい」「頑張りどころ」を考えていくことになります。

水谷心療内科 院長 水谷雅信