「五月病」とは

「五月病」という病名は精神科でも心療内科でも存在しません。しかし、五月病と呼びたくなるような病状があるのは事実です。

この日本では、4月に大きな生活や仕事の変化を迎えます。仕事では、転勤・昇進・業務内容の変化、家庭では引越・地域の役員・新たな趣味活動、学校では入学・クラス替え・部活動への入部、社会では税制や法律など各種制度の変化などがあり、老若男女を問わず大きな環境変化が生じやすい時期です。その環境変化がストレスになり、5月になって心身の不調が出てくるのが「五月病」なのです。
もちろん、大きな環境変化・ストレスがあった時には、その日のうちや数日で心身の変調が起きます。しかし、震災のようなトラウマ的な出来事でもなければ、環境変化があってもすぐに心身に不調は起きません。まず、私たちの体は環境変化に順応しようと努めます。ただ、その順応には、いくらかの無理が伴います。
その無理を続けていると、ちょうど30日目くらいに疲れが出てくるものです。4月初旬に大きな環境変化があった場合、ちょうどゴールデンウィークの連休の頃に疲れが出てくるわけです。(なぜ30日目なのかは、不思議です。女性の月経周期のように、人間のバイオリズムとして、30日周期というものがあるようです。) 逆に言えば、環境変化があった時には、30日経っても心身に特に変化が生じなければ、ひとまず安心、ということになります。

さて、「五月病」を医学的に説明するなら、次のような分類ができそうです。

1)自律神経失調症
ストレスがあった時には、まず心に変化が起きるのではなく、体に変化が現れる方が多いものです。何となく汗ばむ・火照る、動悸、胃がもたれる、便秘・下痢、頭が重い、立ちくらみがする、めまい・ふらつき、口が渇く、などの症状が生じます。
近年の4月~5月は、温暖化によって昔と比べて高温になってきています。ということは、冬の低温からの変化、気温の上昇が短期間に生じるわけです。多治見のような地域では、日内の温度差も大きくなるので、思いのほか厳しい季節になるのです。(自律神経の機能の一つは体温の調整ですが、このような季節では、温めて良いのか冷やせば良いのか、自律神経が混乱してしまうのです)
4月の環境変化によるストレスに加え、天候のストレスが重なって、自律神経の失調が起きやすくなるわけです。

2)抑うつ状態
頑張ってきた脳が30日目にバテをきたした状態です。気分が沈んむ、何か不安、イライラする、焦る、やる気が起きない、集中力がない、希望が持てない、楽しめない、という心の症状や、眠れない、食欲がない、だるい・疲れやすい、といった体の症状、上記のような自律神経失調症の症状などが起きます、これは、適応障害うつ病の症状と同じです。この場合、疲れた脳を休めるために、睡眠時間を十分に取る、残業をしない、休職する、などの休息をする必要があります。向精神薬による薬物療法が必要になることもあります。

3)注意力の低下
抑うつ状態でも不注意が生じますが、特に抑うつ状態でなくとも、この時期に不注意、事故を起こす人は多いものです。新学期や新入社の頃に、不注意で大きなミスや交通事故を起こしたり、思わぬケガを負ったりする人がいます。新しい環境の中、業務や勉強、部活動などに夢中になってそこに集中するがあまり、視野が狭窄してしまっているのです。テンションが上がって気分はウキウキしていても、不注意が起きます。元々一点に集中すると周囲が見えなくなる傾向がある人は、要注意な時期です。

4)生きがい・やりがい・目的の喪失状態
自律神経失調症や抑うつ症状、集中力低下がなく、心身が健康であっても、仕事や家庭での変化があった時には、私たちは自分のあり方を見直すようになります。
30日という期間は1ヶ月間に当たります。仕事で1ヶ月働くと、月初や月末の忙しさなど、業務の流れを見て一つの区切りを経ることになります。同僚や上司の性格も見えてきて、相性の善し悪しもわかってきます。先の見通しが立ってきます。そうすると、「これからこういう仕事の繰り返しか・・・」「こんな仕事をするために入社したわけじゃない」といった気持ちになることもあります。
そういう見通しは、ある程度正しいものです。ただちに転職を考えた方が良いかもしれません。ただ、1ヶ月時点での見通しが今後の長期間の状況を正しく示しているとは限りません。「石の上にも3年」と言われるように、長期間を経ることによって同じ仕事でも違って見えてくるかもしれません。後から「あの時に辞めなくて良かった」と思うこともあるでしょう。
ですから、このタイプの「五月病」の場合には、余裕があるならば退職の判断を保留し、少し考えてみる方が良いかもしれません。一人になる時間を作る、友達や家族に相談してみる、カウンセリングを受ける、などをしてみて、いろいろな角度から考えてみるのが良いでしょう。